無言の葉書(fuente71号掲載)

                                   中谷 でべそ

 梅雨。よくまあ、これだけの水分が空中にあるものだと呆れるほど毎日雨が降る。雨の雫が重みに耐えかねて、つっと動き始め、窓ガラスを伝わって流れ落ちる。

 過日、萬年筆くらぶ会員のSさんから受け取った、少し大きめの封筒から出てきた葉書には驚いた。見覚えのある葉書。それは私が出した葉書だった。切手は貼ってあり、差出人である私の住所印はあるものの、宛名と本文が書かれていない。狐につままれた思いで同封の手紙を読んだ。「しばらくの間入院していました。退院してきて郵便受けを見たら多くの郵便物が入っていて、でべそさんからの葉書が地面に落ちていました。雨に打たれたのでしょう、万年筆のインクがきれいに流れてしまっていました。ご用件は何だったのでしょうか?」

 なるほど、そう言えば紙が波打っている。私の住所印も薄くなっている。しかし、ブルーのインクで書いた部分は見事に流れ去り、痕跡すら感じ取ることができない。そのあまりの潔さに感動すら覚えた。

 白い葉書を見ていたら、万年筆で書かれた葉書には、まるで命でも宿るのではなかろうかとの思いに至った。その命は、儚くシャボン玉のように消えてしまうこともある。文字が流れてしまった葉書は何も語ることはできず、無言のままSさんと対面したのだ。

 そろそろ梅雨も明ける頃だろうという日に、Sさんに再び葉書を書いた。Sさんは季語と歳時記を研究していて、MY辞典を作っているという。そのノートを是非見てみたい旨を記し、ご病気は何だったのかしらと案じながら、いつものポストに投函した。

 その数日後の雨の日、再び見覚えのある葉書が郵便受けに入っていた。それは私がSさんに送ったはずの葉書。文字は消えていない。なのに何故?

 宛名の横に「宛所に見当たりません」という郵便局の印。私はハッとして窓の外を見た。窓ガラスの雨の雫が流れ落ち、そして消えていった。

       fuente 71号製作終了


まず書斎の机の上に、作業用のデスクマットを敷きます。手作りの作業用デスクマットは何年も使っていて、インクの染みもあります。MAXのホチキス・タテヨコを使って1冊ずつ製本をします。デジタル時代においては、考えられないような手作り会報誌です。完成しましたので封筒に入れて全ての発送を終了しました。71回目の約束を果たしたという思いで、ほっとするひと時です。

      fuente 71号製作中風景


fuente 71号は64ページです。8種類の印刷の山から1枚1枚を取り、ページ順に重ねていきます。一番右にあるのが、1ページから64ページまで揃ったものです。機械でやればすぐに終わるのでしょうが、そのような設備はありませんので手作業でやっています。


           鳥の置物


山口県萩の骨董屋で買ったもの。木製で泥のような絵具で仕上げてあります。なんとも素朴で、ほのぼのとしてしまいます。もう30年近く棚の上にいて、私をじっと見つめています。

理想を忘れてはいないか。自分の利益を優先させる生き方をしてはいないか。健康に気を配っているか。いろいろと問われています。

          愛用の電卓


長年使っている電卓です。お洒落でセンスのよい電卓を見かけると、いいなあ~と思うのですが、買ったことはありません。買って帰ると、この電卓の出番がなくなるからです。

       モンブラン ボルドーレッド


モンブランのボルドーレッドのインクボトル。W-Germany と印字があります。手紙を受け取った人は、この色を見てでべそからだと判断します。

この色もインクボトルも絶版です。数個の買い置きがありますが、それが無くなりましたら、「ボルドーレッドのでべそ」は終わりです。

      fuente71号 発送準備進行中


会報誌『fuente』の発送準備をしています。

記念切手を貼って、手書きで宛名を書きます。

インクはモンブランのボルドーレッド。

発足以来24年間、変わらぬスタイルです。

郵便に関するアナログの世界を守りたいと思っています。

        会員登録用システム手帳


萬年筆くらぶの会員情報を管理しているシステム手帳です。登録会員数は1300名を超えました。

この他に、原稿管理や経費管理の数冊のシステム手帳があります。

     fuente50号 発行記念品 ペンレスト


フエンテ50号を発行したときに作りました記念品です。Stylo Art の数野元志さん製作です。経年変化で飴色に変色してきています。

萬年筆くらぶはそろそろ発足25年目を迎えます。フエンテも75号に達します。25周年記念・75号発行記念は、どのようなものにしましょうか。

           古い絵葉書


萬年筆くらぶでは年間1000通近いの葉書を出しています。写真は古い絵葉書ですが、このようなものも時には使っています。「きかは便郵」という文字が見えます。古びれていて汚れているのですが、皆さん、でべその遊びを楽しんでくださっています。1